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それは昨晩のこと
月が奇麗だな。
学校から帰り、制服姿のまま珍しく机に向って勉強をしていたあきらはふと窓から外を見た。そこにはグレープフルーツのように鮮やかな満月が夜空に輝いていた。
彼は、まるで街灯に集まる昆虫のようにふらふらと外へ出た。
彼の住んでいる町は都会というよりかなり田舎に近く、夜出歩く者はほとんどいない。
月明かりに照らし出され、並木道の木々が温かく照らし出される。
静かだ満月の夜はやっぱりいいな…。
彼は足取りも軽く丘にある公園へ向かった所で話し声が聞こえてきたのだった。
「わかった?」
「ううん…だめ、見つかんない。昼間あの学校に居たって事までしか…」
「ユア。なんとかならないの? せっかく怪しまれないように制服まで拝借して潜入したのに結局手掛かり無しなんてあんまりだわ!」
「不可。ここ一帯に追跡を邪魔しているものがある」
こんな時間にも関わらず公園に三人の人影が見えた。声からすると少女のようであり何か探しものをしているようだ。
月明かりに照らされてぼんやりと彼女達の着ている制服は桜田学園の制服だということがわかった。
止めておけばよかったものを彼は魔がさしたのか彼女達に声をかけた。
「何か探しものでもしてるのか?」
月明かりに照らされた三人が振り返る。
「うそ…」
証明が月明かりのみのためよく顔が見えないのだが、長い髪の毛をポニーテールに纏めた少女が驚きの声を上げる。
「あんた…」
素早く距離を詰めた少女は、突然彼のブレザーを掴み引き寄せる。
「一体何してたの…!? 何でこんなところにいるの!?」
接近してきた少女の顔が月明かりに照らされ、はっきりと見えた。
それはとても悲しく。悲愴感に満ちた表情だった。
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