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「しかし……またここに来るとは思いもしませんでした」
エルを背負いながらフランツは静かに口を開く。ディーンはフランツの横を並んで歩き、時折邪魔な草木を掻き分けて誘導していく。
「また?フランツさん、先程はここにはいらした事がないみたいな素振りでしたが?」
「いえ、来たことはありますよ。ただ、その時は木が白くなかったんです」
「ああ、それで……白い木をご存知なかったわけですか」
ディーンは飛び出た木の枝を軽快に折りながら言う。
「失礼ですが、以前いらした時というのは、いつ頃なのですか?」
「十二年近く前になりますね……」
「十二年ですか……はは、エドワードが生まれたぐらいですね」
「ええ。忘れもしません、あれは十二年前でした」
フランツが妙に感傷的な表情になって遠くを、先を見据える。その表情を目の当たりにしてディーンは次の言葉が見当たらなかった。
これ以上聞き入ってはいけない事なのかも知れない、と。そう感じたディーンは何事も無かったかの様に草木を掻き分けて進んでいく。そんな彼の反応に対し、フランツも何も言わずにその背中を追った。
「ふう、見つかってよかったですな」
ディーン達の左方から三人の町人が向かってきながらそう言う。
実に他人事の様に――実際他人事なのだが――自分達が行ってきた事が無駄にならなくて安心した面持ちで小太りの町人が続ける。
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