第二章 白の森

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「いや、そうなんですけど……良く見ると違うんです! この脱皮した穴の中……ほらっ」  言いながらショウはディーンの目の前に白蛇の皮をぐいっと近づけた。ディーンは少し背中を反らせ、顎を引いてその皮の中を見る。 「ほらって……別に普通の……」 ディーンは目が丸くなる。 脱皮された皮の中を見て、本来ならば在りえないものがそこには在った。在りえないはずなのに在った。 「これは……? 脱皮した皮の中に、小さい蛇の……木乃伊(みいら)?」 「そうなんですよ!」 ショウは白蛇の皮をディーンから引き離し、眼を輝かせる。 「これは世紀の発見ですよ! 未知との遭遇ですよ! この蛇はなぜ脱皮した後、小さくなったのか!? しかも、干からびて死んでいるのか……。普通脱皮と言うものは体の成長に併せて、それまで来ていた皮が小さくなったので脱いでいくものなのですよ。成長したから以前まで来ていた服が着られなくなるのと同じですね。しかし何故また脱皮した後、成長したはずなのにこうして木乃伊となってしまったのか。はたまた脱皮が終わる前に既に息絶えてしまったのか……。想像しただけでゾクゾクしますね!!」  ディーンはショウの輝きに少し退いた。確かにその白蛇の皮を見るショウは紛う方なく科学者の眼そのものだった。  先程のショウが言っていた自身の職種を疑っていた訳ではないが、なるほど。名ばかりの教師ではなく、いや、本来は教師ですらなく、一人の科学者なのだろう、とディーンは思った。 「持って帰りたきゃ持って帰ればいいだろ? いくぞ」 言って、早々に話を打ち切り、ディーンは草木を分けて進んでいった。ショウは白蛇の皮を恍惚とした表情で見つめ、吐息を漏らしてから持っていた布の鞄にしまった。  その姿を後目で見ていたディーンは一言感想を漏らした。 「恋する乙女みたいだ」
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