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フランツは一呼吸間を空けると再び喋りだす。
「霧が晴れるとそこは真っ暗でした。私はその時、日が沈む前に帰る予定だったので、火を灯す物を持っていなかったのです。……正直困り果てましたね。赤ん坊は泣き止まないし、道は見えないし、で。しばらくは経験と勘を頼りに山道を進んでいったのですが、だんだんと山を登っているという感覚が薄れていくんです。確かに私は傾斜を歩いていました。しかし、行けども進めども、頂はおろか星空も見えませんでした。経験上、もう既に山頂に到着していてもおかしくない距離を私は歩いていました。私は本当に進んでいるのか? もしかしたら来た道を戻っているかもしれない、と。そんな不安が募っていく中、私は微かな光を見たんですよ……。家があったんです。その時、私は家を見たわけではなく、光を見たのですが……それでもその光が《人がいる》ではなく《家がある》と確信をして私は走りました。神の救いだとさえ思いました。その時にやっと気付いたんです。腕に抱えた赤ん坊が泣いていない事に。泣き止んでいる事に。ははは……当時の私は子供、特に赤ん坊に対しては無知そのものでしたからね。泣き過ぎて死んでしまったのかと思ったんですよ。実際は泣き過ぎて、泣き疲れて寝ていただけなんですけどね」
フランツが苦笑するのにあわせてディーンも苦笑した。
「それで……明かりのついた家を訪ねると、そこにいらしたご夫婦は見知らぬ私を快く迎えてくれました……」
「そんな優しい方たちがこの山に住んでいるのですか?」
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