第二章 白の森

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■ ■ 「違う……貴様はただの、ただの《ヒト》だ」  エルは目を見開いて言う。  その眼はフランツの知っているエルのそれとは異なっていた。燃える様な真紅の瞳。見ているだけで精神が全焼してしまいそうな、見られているだけで身体が燃え尽きてしまう様に深い、憎しみに満ちた眼だった。 「え?」 と、フランツが疑問の声を出す前にエルの眼から、全身から眩い光が発せられた。同時に爆風がエルを中心に発生し、物凄い音がする。エルを囲っていたディーン、フランツやショウを含む六人の町人は爆風によって吹き飛ばされ、彼女を背負っていた顎鬚の町人はエルの真下で爆風に圧され、光の熱で黒焦げに、炭と化していた。一瞬である。 「……まったく、貴様如きが私の父親などと……笑わせる」  エルは微光を纏(まと)いながら、吹き飛ばされて倒れているフランツの元と歩み寄る。そして、フランツの頭にその小さな手を沿えて、 「消えろ、醜い《ヒト》め」 と、言う。  途端、フランツの顔が発火する。  火種なんてどこにも無いのに、石を打った訳でもないのに突然と、轟々とフランツの顔面は燃え上がる。 「――」 フランツは声にならない叫びをあげてその場でのた打ち回る。顔を地面にこすり付けても炎は消える事はなく、むしろどんどん大きく燃え上がってやがてフランツの全身を覆って燃える。  炎は消えず、自らの力が尽きるのを感じ取ったのか、フランツは、 「エル」 と、小さく言う。  言った後、フランツは動かなくなった。  何も言わなくなり、ただ悠然とその炎を体に纏い続け、ただの黒い炭と化した。
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