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倒れ伏した葉巻の町人を見下し、嘲笑した後、エルは再び辺りを見渡す。その視界にディーンの姿を捉えるとまっすぐ、先程人を殺したばかりだというのに迷いの無い歩みでディーンへと近寄る。そして、ディーンの顎に手を当てて顔を凝視して首をひねった。
「お前は……ロイズ?」
エルの問いに対しディーンは何も言わなかった。いや、なにも言えなかった。ただ、疑問は生じた。
何故、このエル嬢でないエル嬢は自分の姿を見て疑問符を浮かべるのか、と。しかし、そんな考えはすぐに消えた。死を覚悟したからだ。葉巻の町人にした様に、辛うじて原型を留めている二つの人型の黒い炭の様に。
死ぬ、と。
自分は殺される、と。
しかし、エルは腹を据えたディーンに対して予想していなかった行動をとった。
接吻。
ディーンの唇に自らの唇を重ねた。
驚愕こそしたが、それを表情に出すディーンではなかった。いや、何がなんだか解らず、思考がついていかず、止まってしまっていたというのが主だ。
エルはディーンから唇を離すとディーンの目を見つめた。
相対してディーンもエルの目を、瞳を見つめる形になる。まるで炎の様に赤い、薔薇の様に紅く、真紅という曖昧な色で表現する他ない、深い瞳だ。
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