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「ロイズ、ああ……アレックス・ロイズ」エルは言いながら倒れているディーンに抱きつく。「そなたも、現世に蘇ったのか? ロイズ」
エルはそんなことを呟く。
まるで旧知の恋人、生き別れた恋人の名を呼ぶ様に。エルの表情は、声は今までとは違うものになっていた。嬉しそうだった。凛とした、堂々とした根本こそ変わらないが、確かに感動と至福で今にも泣いてしまいそうなものである。
そんなエルの挙動を感じてか、だんだんと自分という感覚を取り戻してきたディーンは擦れた声で言う。
言い放った。
言わなければ良かったかも知れない、ただエルが勘違いしていただけの真実を。
「悪いが……俺はディーン・ロイズだ。……アレックスではない」
「…………」
ディーンの声が聞こえなかったのか、聞き取れなかったのか、信じられなかったのか、エルは何も言わない。
しばらく膠着状態だったが、やがてエルは「そうか」と一言。
「そうよな。生きている訳があるまいか……ロイズは、アレックス・ロイズは《ヒト》だったものな」
エルは半ば理解していた。理解していたが認めたくなかったのだ。生き別れた恋人はもう亡くなっていると。生き別れから、死に別れになっているのだと。
だが、ディーンが真実を、現実を告げた。
認めざるを得ない現実をつきつけた。
エルは小さく嘆息するとディーンから離れ、彼の頭に手を沿えた。
「ロイズの末裔よ……いや、末裔とも限らぬが、あえて末裔と称させてもらおう。その方が私の気が楽になるからな。……せめて苦しまぬよう燃やしてやろう」
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