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その時、ディーンの視界には酷く悲しみを孕んでいるエルの瞳が見えた。
憎しみに満ちた眼ではなく、喜びに満ちた目ではなく、強いて表すのならば嘆いている様な瞳だった。
その瞳を見た後、ディーンは目を瞑り、静かに終わりの時を覚悟した。
若いのも殺されたのに、俺だけ生き残ろうなんて虫のいい話だよな、と。
ショウは無事だろうか? 帰ったら飲むっていう約束、果たせなくてすまんな、と。
エドワード、大丈夫だろうか。……こんな父親で、すまん、と。
大抵の人間は最期、今までの人生を走馬灯の様に思い返し、そして懺悔をする。
それはディーンも例外ではなった。
しかし、その懺悔が全て終っても、人生を全て振り返って、美点や汚点を繰り返して思い返してもディーンの意識がなくなる事はなかった。むしろ考えれば考える程、段々と意識がはっきりしていくのを彼は感じていた。
既に俺は死んだのか、とはっきりとした意識の中ディーンは目を開く。目の前にはよく耳にする花畑やせせらぎが流れている訳はなく、先程までと同じ、荒れた山の頂の景色が視界には広がっている。
いや、先程までと同じなのはあくまでも景色、背景だけだった。
エルは目の前にいない。
代わりに見知らぬ女性がディーンの目の前に立っていた。
白いワンピース、赤い頭巾を被り、透き通る様に肌の白い女性。
シータだ。
シータがディーンの目の前に立ち、数メートル離れた位置にいるエルと対峙している。
「あなたを殺せば私の役目は終わる……」
「この感じ……オリウスか」
ディーンは混乱が隠せないまま二人を見据える。
「こんな小娘に自らの力を託すとは……情けない」
「情けない?」
シータは嘲笑して言う。
「私からしたら、そんな小娘の体を乗っ取ってまで現世に蘇ろうとするあなたの方がよっぽど情けないと思うけれど……」
まあ、そんな問答は不要ね、とシータは続けて言う。
「終わりにしましょう。エルフェント」
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