第三章 始まりの夜、終わりの朝

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■ ■ 「俺と姉ちゃんは選ばれた人間なんだ」 エドワードとマイケルは山頂を目指して駆けていた。  既に頂から上っていた光は消え、山道は再び暗く沈んでいた。空を見上げれば星や月が輝き、昼ほどでなくても十分に明るい夜空だが、木々に遮られてその光はほとんど二人の下へ届いていない。  ほとんど見えないと言っても過言ではない山道を、エドワードが先導して駆けている。その背後をマイケルが追っている。 「選ばれた人間?」  マイケルの言葉に振り返らず、立ち止まらず、走りながら尋ねるエドワード。 「そう、それは君も一緒」  エドワードの問いに更に疑問を増やすようにマイケルは答える。 「俺と姉ちゃんは双子なんだ……外見上そうは見えないとは思うけど、事実さ」  マイケルはニヒルな笑みを浮かべるが、当然、前方を走っているエドワードにその顔は見えない。 「十八年前、俺たち家族はジバラードへ海水浴に行ったんだ。そこで俺は足をつって溺れて……姉ちゃんが助けようとしてくれたんだけど、結果、俺と姉ちゃん一緒に溺れた。溺れている人を助けるのっていうのはかなり技量が必要だから……つまり、正確には俺が姉ちゃんを溺れさせたんだ」  マイケルは溜息を吐いて続けて言う。 「もう駄目だって思った時、死を覚悟した時、夢を見たんだ。今際の時に夢を見るなんていうのも変なものだけどさ、記憶の走馬灯とかではなく、本当に見たことのない……エルシオン神話にでてきたオリウスの夢さ」 「…………」
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