第三章 始まりの夜、終わりの朝

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 周囲の空気の変化と彼女らの気迫に負けたのか、エルフェントの後方にいた強面の町人は、 「ひっ……」 と、非情な声を漏らして立ち上がり、そのまま逃げ出した。  エルフェントは後方を確認せず、後ろ手で正確に強面の町人へその掌を向ける。  次の瞬間、強面の町人は燃えあがった。  フランツ同様、エルフェントは何かをした様子はない。  ただ、手をかざしただけで。  ただ、掌を向けただけで。  人一人が燃え上がった。  一瞬で燃え上がった炎は鎮まるのも早い――さすがに鎮火は一瞬とは言い難いが。それでも、人間一人を燃やすには、命を奪うには十二分らしく、すでに強面の町人は黒炭となり、人の形を残したまま崩れ落ちた。 崩れ落ちて、更に崩れた。 「あなたも、消えなさい」  エルフェントは強面の町人の絶命を感じ取ると、今度はシータへとその手をかざす。それに反応する様にシータもエルフェントに向けて手をかざす。お互い掌を見せ合うように対峙すると、突然、シータの前方、ほんの一メートル先が燃え上がった。フランツや強面の町人を一瞬で燃え上がらせたあの炎が、シータの前の地面を燃やす。しかし、不思議な事にそれ以上炎はシータに近付く事はなかった。まるで、壁があるかの如く、炎はそこで遮られる。火の手は愚か、火の粉もシータに対して一メートル以内に近付く事はなく、今までと同じ様にすぐに鎮火する。 「何も抗わずに死になさい」  シータが静かに言い、エルフェントを先程とは違う、何か一線を画した眼光で睨む。
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