第三章 始まりの夜、終わりの朝

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 しかし、エルフェントは含み笑いをしながら端然としている。そんな彼女の様子に疑問を抱いたシータは、 「なぜ死なないの?」  と、尋ねる。  口調や顔には表さないが、シータは内心焦っていた。  シータの瞳は殺したい相手を睨むことで、相手を殺したいと願うだけで殺せる――それはオリウスがシータに授けた能力の一部だ。どんな命もこの能力で奪ってきた。  鼠も――  猛獣も――  街の考古学者も――  両親も――  シータが気に食わないものは全て睨んだ。睨んで、殺した。  正確に言うならば、両親に関してはシータが意図的に殺したのではなく、エルフェントの魔力によって彼女の内のオリウスが暴走したと言うのが正しいのだが、彼女自身に両親を殺したという自覚はある。殺したいと思っていた自覚はあった。  シータの瞳はどんなものでも殺せる。それが植物だろうと関係はない。睨めば、生命があるものは死に絶える……はずだ。しかし、エルフェントには何も変化が起きない。燃え上がる訳でもなく、苦しむ様子もなく、萎れていく姿も見受けられない。ただ、平然と、端然と、自然に立ち振る舞ってシータを睨み返しているだけなのだ。
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