第三章 始まりの夜、終わりの朝

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 死体が炭化し、崩壊したのを確認するとエルフェントは満足気になってシータへと視線を戻す。 「私の炎で美しく散ってもらわないとね。ただ殺すなんて芸がないわ……何よりそこに何も美学を感じないわ。解る? 美学」 「それが、どうしたのよ」  冷静な口調でそういうと、シータはエルフェントへと向かって駆け出す。その足はとても軽やかで、力強く、十メートルは離れていた距離を一気に縮める。シータは右手の各指間接が軽く曲げ、熊手の様な形をとっており、更に掌には空気が歪むほどの熱気の塊を添えていた。エルフェントにその右腕が届く距離まで近づき、右手を彼女の顔目掛けて大きく振り下ろす。しかし……いや、大振りだったからこそ、エルフェントはシータの熱気を込めた右手をいとも容易く左腕で受け流し、シータの慣性を利用して彼女の懐に入り込んで顔を近づける。 「ふふ……、攻撃が単調よ。あなた」 「くっ……」  エルフェントはシータの腹部に右手を沿える。フランツや小太りの町人、強面の町人を燃やした様に、若しくは葉巻の町人を糧とした時のように、右手を添える。シータはエルフェントの意図を感じ取ったのか、素早く反応してエルフェントの右腕を左手で掴む。  しかし、右手を掴んだからといってエルフェントの炎を防げるわけではない。しかし、エルフェントは炎を放てない。燃やす対象と接触しているからだ。  つまり、腕を掴まれた状態で炎を放ってしまったら二人とも焼けてしまう。 シータを燃やす事ができると同時に、それは自殺行為に等しくなってしまうのだ。  だから、エルフェントは対抗した。炎以外で。シータの右手を受け流していた左手首を返し、その腕を掴んだ。 「これで形勢は五分ね」 「……っ」
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