第三章 始まりの夜、終わりの朝

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 お互いがお互いの右腕を左手で掴み、二人は膠着する。しかし、両者を忠心に明らかに空気が淀んでいた。形容しがたい、歪んだ空気が渦巻いていた。一見、どちらかが動けば決着がつくような体勢ではある。故にどちらも動かないのだと。  しかし、この二人の姿勢はエルフェントが言っている程対等な関係ではなかった。  エルフェントがシータの腹部に手を沿え、いつでも攻撃できるが、自らを燃やしたくない。自らに燃え移ったとしても、自分の能力で発火したものなのだから鎮火はすぐにできる。だが、確実に軽度だが火傷を負う。だから、しない。  シータはエルフェントのどこに狙いを定めるにしても、相手以上の速度で攻撃を当てる事ができない。それはつまり、相手の反応速度によっては反撃を食らい兼ねないため、攻撃ができない。  しない、と、できない。  この決定的な差はエルフェントもシータも重々承知している。しかし、エルフェントは、しない。攻撃をしない代わりに小さく微笑んで口を開く。 「ふふ……その緋色の瞳、そっくり」 「……?」 突然喋りだしたエルフェントの言葉を理解できず、シータは疑問の表情を浮かべる。
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