零之巻:遊撃隊・羅翼(らよく)

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 首都『帝臨(ていりん)』から北東に位置する広大な岩地の荒野を、凄まじい砂埃を巻き上げながら一隻の船がホバー航行していた。 その艦橋― 「艦長、目標地点まで、残り1500。数分後には到達します。」  頭の左右両方で髪を結った眼鏡の女の子―この艦のオペレーター『七原 莉菜(ななはら りな)』―は、データパネルを見ながら、よく通るトーンの高いその声で、そう報告した。 「了解。索敵、周囲に敵影はないわね?」 艦長と呼ばれた彼女―『雪代 飛鳥(ゆきしろ あすか)』は、莉菜の報告に応答し、索敵オペレーター―角刈りの男性艦橋要員『篠原 泉(しのはら いずみ)』に報告を促す。 「反応、ありません。」  聞いて、飛鳥は一つ小さく息を吐いた。 「と、言うわけですが、隊長。如何がでしょう?」  ―と、シートに腰掛ける自分の数歩手前で蹲る男―『咲村 羅希(さきむら らき)』へと、問掛ける。  半分バケツに顔を突っ込んだ羅希は、何とか口を開こうとするが― 「う・・・ぷ・・・し・・・進路・・・航行速度・・・その・・・ま・・・ま・・・ぐぅぅう!」  言葉を発する余裕がない。  船酔いならぬ、乗り物酔いと言うやつである。  しかも重度の。 艦橋内に響きわたる羅希の悲痛なうめき声と、それに伴う嫌な音に、艦橋要員全員が額に汗したのは言うまでもない。  それでもと。 「隊長、大丈夫ですか?」 飛鳥はシートを下りて、羅希の背中を優しくさする。「うぅ・・・だいじょばねぇ・・」  バケツから顔もあげられず、涙ながらに言って― 「総員・・・だ・・・第一戦闘配備・・・た・・・うっ・・ただし・・・機銃・・・し・・・主砲共に・・砲頭は・・外へ出すな!っぐおぉぉぉ・・・」  ようやく下された命令に、飛鳥はシートに戻って莉菜に伝える。 「聞こえたわね?総員第一戦闘配備!ただし機銃・主砲共に砲頭は外へ出さないように!」  莉菜は、艦内放送のスイッチをONにすると、それを復唱した。
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