5人が本棚に入れています
本棚に追加
その言葉を聞くなり、ハイネはさっと上空に飛び立った。
さっきまでいた場所を、紅蓮の炎が一瞬にして覆う。
「パフ──」
「僕は、ジャッキーを待たなきゃいけないんだよ! ハイネ!」
ふぅっとパフの吐いた息に、炎が混じる。
ハイネは背筋に冷たいものを感じた。
──さっき、咄嗟に飛び立たなかったら、自分は今頃……
青紫の翼が、音もなく拡がる。
ハイネは哀しげに目を細めると、ぐっと高度を上げた。真紅の身体が、冷たい大気を切り裂く。
十年前、パフはあまり飛ぶのが得意ではなかった。今もそうなら、この高みには来られまい──
「僕は昔の僕じゃないよ」
背後の声に、はっと振り向く。琥珀色の瞳が、同じ高さでハイネの海色の目を見つめていた。
「パフ、君は……」
「飛ぶの、練習したんだよ。ジャッキーを背中に乗せて、入り江をぐるっと回るために」
ばさり、と。
羽ばたくその音は、そこらのドラゴンより力強い。
「いつまでも昔のままなんて、そんなものはどこにもいない──」
「っ、ならば」
ハイネは口から、太陽のように熱い炎を吐いた。
目的はただ一つ。
目の前にいるかつての友──パフを、攻撃するため。
最初のコメントを投稿しよう!