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都心からそう離れていないこの街には、局地風の影響で毎日塵埃(じんあい)が降る。
そのため、もともと真っ白だった白亜の館は灰色にくすみ、白い鳥も、犬も、猫も煤だらけ。
冬、空から来るべき白さえも粉塵を含み、街で生まれ育った八歳の子供なぞ、雪は元来黒いものだと信じていた。
そして外出する時は、人々は大きなマスクをつけなければならなかった。
でなければ、たちまち鼻が暖炉に潜ったように真っ黒になってしまうのだ。
空を見上げれば鉛色の太陽。
陽が暮れればいよいよ色は無くなって、歩行者は懐中電灯を点け、無灯火運転など重罪だった。
風景を描けば黒いクレヨンで事足りる。
いつまでも曇った空
埃っぽい風
煤の積もった花
この街の人々は、次第に色を忘れて行った。
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