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――バレリーナの心に、黒い雪が音も無く、しんしんと降り積もる。
親のように慕い、ずっと目をかけてくれた監督が苦心して決めた配役に文句などつけられるはずがない。
かといって、互いに競い合い励まし合ってきた仲でオデット役を喜んでいる友人に、彼女は何も言えなかった。
――ポツリ、ポツリと黒い染みが白い衣装に降り立つと、次第に真っ黒に染め上げる。
ただ、バレリーナは誰も居なくなった練習場の鏡の前で、潰れた爪先を両手で包み、静かに泣いたのだった。
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