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この黒い街に育った絵描きは昔、黒の混じっていない色に憧れ、鮮やかな有彩色の絵具ばかりを使った絵を描いていた。
しかしこの頃はスランプ気味で、煤掃除で生計を立てつつ、小さくなった鉛筆を器用に削っては静物やら風景やら、目に留まるものをデッサンして過ごしていた。
実の所、絵が売れずに殆ど一文無しになっていて、絵の具を買う余裕が無かったのである。
絵を描く時間より働く時間が増え、煤掃除が板に付いていると馬鹿にされて、落ち込んでいた絵描きがある日、ピカピカに磨いた今晩の夕食を兼ねた貴重なリンゴをテーブルに乗せて、いつもの様に鉛筆を削っていた時のこと。
一羽のカラスが最早殆ど役目を果たしていない窓から入り込み、テーブルに着地した。
絵描きは今夜の夕食を救出すべく、すぐに追い出そうと立ち上がった。
が、
ある事に気づいてぴたりと動きを止めた。
カラスの黒い羽根には様々な色が映っていたのだ。
カラスが彼を見て首を傾げる度、首に映った黒は、紫、青、緑と変化する。
気がつくと、絵描きは必死に鉛筆を走らせていた。
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