【黒】 黒い鳥

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しかし街中がバレエ団に浮かれていた一方で、鉛筆工場の労働者たちは仕事に追われていた。 ある絵描きの絵が国際的に権威ある賞を取り、評価される様になってからというもの、鉛筆の需要が急激に高まったのである。 その絵描きはフラッシュに目を細めながら、ぎこちなく、次の様に語っている。 「僕の街は空気中に常に粉塵が漂っている様な場所で、絵の具を混ぜる際にどうしても不純物が入り込み、色が濁ってしまっていました。  もちろんそんな絵は売れず、お金も碌に無くなって途方に暮れていた時のこと、目の前に一羽のカラスが舞い降りてきたのです。  その瞬間、私は黒の美しさを知り、無我夢中で書留めました。  以来、私は黒一色で色を出すという技法を編み出し、今では好んで黒一色を使っています。」 この時絵描きが描き上げたカラスの絵は、今も街の美術館に常設展示されている。 確かに鉛筆一本、黒一色しか使っていないはずなのに、何故か色鮮やかに見えるという。
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