ガトー+イサ

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冬のとある日。 賑わいを見せるジュエルストリートで、厄介なことに、学園の生徒と遭遇してしまった。 「ん? ……あなた、は」 どうやら向こうも気付いたようだ。片手に持った白い箱をかばうように半身になった。 まだ互いに、得物は構えていない。 「俺に、何か用ですか」 淡々とした声。本来人懐っこいであろう顔は、今は何の表情も映っていない。 「そう噛み付くな。別に用なんかない」 街を歩いていただけだと告げるも、警戒は解かれない。 肩をすくめため息をつく。 訝しむ少年は、俺のことを警戒しているが、半身だけは解いて箱を直した。 そのまま俺の脇を擦り抜ける。 「何ですか」 気付けば少年の肩をつかんでいた。不機嫌そうな、訝しげな表情。当然だ。 「それ、何だ」 白い箱を指差す。 そこからは甘い匂い。 「は?」と間抜けな声を上げる彼を、たぶん真剣な目で見ていたのだろう。 「…よければ、どうぞ」 渋々、と言うように差し出された箱。あけてみれば色彩豊かなケーキの数々。 「うまそうだな」 ぽつり、こぼれたつぶやきに、少年の表情が少し和らいだ。 「好きなんですか? 甘いの」 意外だと、萌黄色の眼が言う。 うなずくだけの返事を返すと、彼はそのまま踵をかえした。 「あ、おい」 箱を返すべく呼び止めると、顔だけ振り向いて 「また作るからいいですよ。それも余ったやつですし」 印象どおり、人懐っこい笑みを見せながら人込みに消えていった。 (まさかあんな強そうな人まで甘いの好きだなんて…)
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