黄昏

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この地―…そう、元上司ネフェリムから頂いた「はず」のヤムル大平原に。 この不毛だった大地を耕し一から開拓し、一面の葡萄農園にまでした過去を思い出す。 あの時は平和な葡萄農園主として、ずっと長く優雅な夢を見続け居られると、何の気無しにそう思っていた。 いや、居られた。 だがその夢の様な日々も長い長い年月の最中に踏みにじられ、今や夢の後。 また一から耕して行かなくてはならないだろう。 それこそ長い月日をかけて。 「まあ僕にとっては容易いことですがね。」 人よりかなり長命なのだ。 否。 不死、である。 独り言つつ、大平原になってしまった嘗ての、面影が無くなってしまった自身の葡萄畑に一歩、また一歩と足を踏み出す。 遠くの方に目を向けると、小さな白い壁の民家が目に入る。 それ以外は全て草ばかりが一面に広がっている。 時々動物等が通るのか、はたまた人が通るのか。草むらの合間に獣道のような狭い小道が一本、目の前に現れる。 その道を目にした瞬間、ふっ…と、ほんの少し人外の牙を口元から剥き出させ、我知れず微笑を浮かべてしまう。
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