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「お前の魔法陣のお陰だな。随分と効果があったらしい」
「やめてよ、気持ち悪い。あんた、悪いものでも食べたんじゃないの?」
今までずっと突っかかっていたライザーが態度を急変させたことに、クレアも驚きを隠せないようだ。実際、ライザー自身も自分がすんなりと会話できていることに驚いている。そして、この会話がどこか心地良いことにも。
そんなライザーの心情を無視するように、クレアはつっけんどんに言った。
「言っとくけど、私は感謝なんてしないわよ。あれは事故で、互いにやることをやって、互いに無事だった。ただ、それだけのことだからね。あんたは頑丈な自分の身体にでも感謝しときなさい」
前までなら言われただけで頭に血が昇るような台詞も、今ではすんなりと聞き流せる。むしろ、前までこんなことで怒っていたのかと、妙に冷めた自分がいた。まるで、少し後ろから知らない誰かのやり取りを見ているかのようだった。
「そうかい。なら、俺だけでも言っとくぜ。……助けてくれて、ありがとう」
すごく、気恥ずかしかった。耳が熱くなるのを感じる、きっと真っ赤になっていることだろう。
クレアは晴天に霹靂(へきれき)が走ったかと思うほどに目を見開いていた。そんなクレアを無視して、ライザーは続ける。
「ああなった原因も俺にある。自業自得だった俺をお前が助けたのは間違いない。だから、礼は言っておく。それだけだ」
若干早口になって、言いきった途端に振りかえった。恥ずかしすぎて、これ以上ここに居られない。
「まっ、待って!」
その場から逃げだしたいのに、クレアが呼び止めたためにライザーは立ち止まった。仕方なく、クレアの方に向きなおす。どんな顔をしていいのか分からなかったが、努めて平静を装うことにした。
が、今度はライザーが目を丸くすることになった。クレアは顔を真っ赤にして、唇を尖らせながら、もじもじと小さい声で言った。
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