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そこまで理解すれば後は簡単だった。クレアはバランスを崩す前に、自ら後ろに跳んだ。落石に巻き込まれないためだ。風を纏い、落下速度を緩める。風を自在に操るクレアにとって、高い所から飛び降りることなど朝飯前だった。
とはいえ、さすがに人一人を浮かばせられるほどの力はない。木の葉が舞い落ちるのと同じぐらいの速さで、クレアは麓の森の中へと降りていった。
ライザーも同じように落下したが、クレアと同じように風を使って速度を緩めた。ただ、得意な属性ではないライザーの風の魔法はクレアほど繊細なコントロールができる訳でもなく、着地しても骨が折れない程度に緩めることが出来ただけだった。
すでに満身創痍だったライザーにはそれだけでもかなりの衝撃だ。なんとか着地したものの、そこから立ち上がる気力はなかった。
少し遅れてクレアがふわりと着地する。地に倒れ伏しているライザーを見て、無事を確認出来たからか、小さく息を吐いた。
「この勝負、私の勝ちってことでいいわね?」
しっかりと地に足をつけているクレアに対して、ライザーは立ち上がるのもやっとというほど疲弊していた。誰が見ても勝負の結果は明らかだろう。
だがライザーはまだ勝負はついていないとばかりに立ちあがり、そして火の玉をクレアに向かって飛ばした。
クレアはぎょっと目を見開き、慌ててそれを避けた。もう魔法も使えないほどに疲れきっていると思っていた。油断していたことは認めるが、それでも今の魔法は最後の気力を振り絞った悪あがきだろう。
そう思っていたが、クレアは目を見張る。先ほどまでは両腕だけに纏っていた炎が、徐々に背中にまで伸びていたのだ。
クレアは舌を打つ、まだ奥の手を隠していたのかと。元々魔法を纏った腕で殴りつけるという非常識極まりないライザーの魔法だ。クレアはいつでも魔法が撃てるように警戒した。
だが、少しして何か様子がおかしいことに気付いた。ライザーはあれから全く動く様子もないし、むしろ僅かに聞こえる呻き声が何か苦しんでいるように聞こえたからだ。
そして、間もなくそれが何かはっきりする。
「ぐぁあああ!!」
ライザーが叫び、前のめりになって倒れた。炎を纏うその姿は、まるで自分の炎に燃やされているかのようだ。
クレアはそれを見てハッと息を飲み、そしてサッと血の気が引いた。
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