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「まさか、《オーバードライブ》!?」
魔法を酷使し過ぎたために起こる魔力の暴走。ライザーから噴き出る魔力が術者自身を焼いているのだ。
クレアは地面でのたうちまわるライザーを見て、何をするでもなく、ただ必死に思考を巡らせていた。
オーバードライブの対処法は簡単だ。昔であればオーバードライブによって死者が出ることもままあったが、現在では血文字を使ってオーバードライブを抑えることが出来る。
だが、崖下の森の中で、一体どこに魔法陣の原料となる血があるというのか。山羊の血のストックなどあるはずがない。今からマルクに戻っても間に合うとは到底思えない。
ただ、解決策は一つだけある。クレアの頭には既にその方法が浮かんでいた。
苦しむライザーを見て、クレアは固唾を飲んだ。
――熱い。熱い熱い熱い。
身体全身が燃えるような熱さ。息を吸い込んでも肺が燃やされるかのよう。目も開けることが出来ない。身体を地面に打ち付けても、喉の、胃の、腸の中で火をくべられているようだ。
一体何故こんなことになったのか。何が原因だったかを探ろうとしても、ライザーにはまともな思考が出来るはずがなかった。クレアと対峙していたことすら思い出せない。ただ、苦しみがライザーを襲うのみだった。
だが少しして、ライザーの顔にびちゃりと何かが掛かった。それと同時に、体中の熱が地面に吸い取られていくような感覚がライザーを襲った。先ほどまで熱で苦しんでいたライザーは、今度は逆に寒さで顎がガチガチと震えた。
何があった。熱で苦しんでいた時よりは大分ましになったのか、ライザーは目を開けた。ぼやけた視界がはっきりするまで少し時間がかかった。ただ、炎が消えているのは分かった。その代わり、体中がだるい。まるで動かせる気がしなかった。
だんだんと視界がはっきりとしてきた。自分のすぐ側に人影が見える。その顔がクレアだとはっきりと分かるようになると、ライザーは目を見開いた。
「おっ、お前――!?」
声を出すのも億劫だったが、言わずにはいられなかった。クレアの手首から大量の血が溢れている。首だけで周囲を見渡せば、自分を中心とした魔法陣が作られていた。もちろん、それはクレアの血だろう。
ライザーの意識が戻ったことに安心したのか、クレアはふらふらとした足取りで側の木に背中を預けるようにして座り込んだ。
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