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何か、自分の中の何かがすっぽりと抜け落ちた気分だ。今までずっとクレアに対して負けん気で過ごしてきた。自分が一番でなければ気に入らない、あの女が自分よりも上にいるのが気に入らない。
そう思っていたはずなのに、その相手が自分の命を救い、それに対して何を思えばいいのか分からない。暖炉にくべる薪がなくなってしまったかのような気分だ。何かを考えるのも億劫だった。
そんなライザーに何を言っても無駄だと悟ったのか、担任の教師はがっくりと肩を落として病室を出ていった。視界の端にそれを捉えながら、ライザーは小さく息を吐いた。
その教師と入れ違いで、今度は別の誰かが入ってきた。一人になりたいのに、と心の中で愚痴り、鬱陶しげな視線を来客に向けて、そして眉根を寄せた。
「……ダレ?」
不躾な物言いに、老人はくっくと笑った。
「ライザー君じゃな。初めまして、私はギルド『ラピスラズリ』でギルドマスターをしている、ジャン・ストラドという者じゃ」
一瞬遅れて、ライザーが目を見開いた。ジャン・ストラドと言えば魔法使いでも有数の実力者で、《風神》とも異名されている人物だ。
その実力者が何故ここに、という疑問を口に出す前に、ストラドはライザーに頭を深く下げた。もちろんライザーは意味が分からず、思わず「へ?」と間の抜けた声が漏れた。
「この度は、娘を助けてくれてどうもありがとう」
一瞬『娘』というのが誰のことか分からず首を傾げたが、当然思い当たる人物など一人しかおらず、それに気付いた瞬間ライザーは驚愕の声をあげた。
「クレアって、《風神》の子供だったのか!? ……あれ、あいつの名前は確か"スタンフォード"だったはずじゃ?」
ストラドがこくんと頷いた。
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