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「君は、北の海を越えた場所にある大陸で、戦争があったのを存じておるかな。私はとある街であの子を見つけた。襲撃を受け、住民は殺されたか連行されたか。誰もいなくなった廃墟に、あの子はいたのじゃ。あの子の両親は、おそらく生きてはいまい。それ以来、私はあの子を我が子として育てた。私にはどうも子宝には恵まれなかったしの。だが血は繋がっていなくとも、私の唯一の娘には違いない。あの子の命を救ってくれた君は、感謝してもしきれぬぐらいじゃ」
そう言って再び頭を下げるストラドに、ライザーは慌てて両手を振った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 助けられたのは俺の方で、むしろこうなった原因は全て自分にあるんです。本当なら俺が謝らないといけないのに……いや、謝らなくちゃいけないんだ。すいません、こうなったのも全て俺のせいです。本当に、すいませんでした」
そう言って頭を下げるが、その行為自体に全く抵抗のない自分に驚いた。今まで人に頭なんぞ下げたこともなかったのに、今では下げた頭を上げることにすら抵抗を感じる。
言葉にしたことで、クレアとのやり取りを思い出し、胃が締め付けられるような気分になった。罪悪感、というものだろうか。思い出せば思い出すほど、自分の行為に腹が立ってくる。ライザーが今まで経験したことがない感情だった。
「……ライザー君。頭を上げてくれ」
ストラドの声に、ライザーは頭を上げる。怒られるのだろうか、と恐る恐るストラドの目を見てみれば、怒るどころか微笑むようにライザーを見ていた。
「あの子はいつも真っ直ぐで、それ故周りを見ないことが多々ある。私を慕ってくれるのは嬉しいが、助けられた恩を感じておるのか、私と同じように誰かを助けるということに躍起になって、無茶をすることが多い。そんなあの子がちゃんと学校で生活できているか不安だったが、君のような友人がいて、私の悩みは杞憂だったと、安心したよ。ライザー君、私からの頼みだ。これからも、あの子のいい友達でいてくれ」
ライザーはキュッと口を結び、小さく「はい」とだけ答えた。
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