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「私の方こそ……助けてくれて、ありがと」
言いきった途端、まるで顔が茹でたタコのように真っ赤になって、そっぽを向いた。本当に、目の前にいるのはクレアか? と思う様な変貌ぶりだった。
「お前、礼は言わないんじゃなかったのか……?」
ライザーがそう言うと、クレアはライザーをキッと睨んで怒鳴りあげた。
「あんたが礼なんて言うから、こっちだって言わない訳にはいかないでしょっ! 何だってあんた、礼なんか言うのよ、もうっ!」
何とも理不尽な言い掛かりに、ライザーはぽかんと口を開けた。そして言葉の意味を理解すると、とうとう堪え切れずに、
「ぷっ」
笑った。腹を抱えて、身体を折り曲げ、息をするのも出来ないぐらいに大声で笑った。
「ちょっ、あんた笑い過ぎ! いつまで笑ってるのよ、いい加減にしなさいっ!」
クレアの顔がますます赤くなり、手に持っていた枕をライザーに投げつける。
それでもライザーの笑いが収まることはなかった。初めて、クレアに勝ったような気がした。それがテストとか勝負とかの結果ではなく、こんなくだらないことだとすればこれを笑わずにいられようか。
本当に、馬鹿馬鹿しくて、下らなくて、可笑しくて……
涙が出てきた。
「――あんた、バッカじゃないの!?」
マルク学園卒業式の日。馴染みのある女の声が聞こえてきてアッシュはそちらに顔を向けた。
そこにはクレアとライザーがいつも通りに喧嘩をしている場面があった。周囲の友人たちも「またか」とすぐに興味を失うが、アッシュは二年前ぐらいから度々興味深そうに二人の喧嘩を眺めることがあった。
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