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どうも、三年次の遠足以来、二人の関係が変わったように見える。それは入学当初から二人を見ているアッシュだから分かること。今まで互いに見せていた敵意が、二人が入院して以来感じられないのだ。
遠巻きに二人の喧嘩を眺めていて、その内容にこっそり耳を傾ける。
「ウチに来るなんて、何考えてるのよ! あんたは貴族でしょうが、家督を継ぐんじゃないの!?」
怒鳴るクレアに対して、ライザーはひょうひょうとした様子だ。
「家は出てきた。家は弟が継ぐから問題ない。従って今日から俺はトッティ家とは何の関係もないわけだ。ま、ギルドってのは初めてだから楽しみだぜ」
歯を見せて笑うライザーは、ここ数年で本当に変わったと思う。前までは常に目をぎらつかせた野獣のようだったのに、丸くなるとはこういうことかとアッシュは思った。
「まったく、呆れてものも言えないわ。その弟も可愛そうね」
「いいんだよ、あいつも喜んでたし。とにかく、お前には色々借りがあるんだ。そいつを全部返すまで、一緒にいさせてもらうぜ」
「はいはい、分かったわよ。まったく、先が思いやられるわ」
クレアはがっくりと肩を落とし、逆にライザーは胸を張りながら人混みの中に消えていった。ギルド『ラピスラズリ』へと向かったのだろう。
アッシュはそれに背を向けて歩きだす。結局ライザーを見返すことは出来なかった。だが、これから同じ業種に携わるというのなら、まだチャンスはあるだろう。
アッシュの向かう先は、ライザーたちとは違う『ガーネット』と呼ばれるギルド。魔法の使えないハンデでどこまでいけるか。学園に入学する時とは違い、今のアッシュには自信が満ち溢れていた。
こうして、それぞれがそれぞれの道を歩み出す。いつも喧嘩ばかりしていた二人が魔法を使えない少年に出会うのも、魔法の使えなかった鍛冶屋の息子が学校の先生になるのも、これからずっと先の話。
ライザー・クレア物語
【完】
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