脇道

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自立するだけの能力は無いが、一瞬でも自分が取ろうとした行動が愚かな結果しか招かないと判断するだけの知識と知恵はある。 そして、先を急ぐ想像力に伴わない行動力。 それが今の自分だと、玖は思っていた。 ホームに滑り込んだ電車に乗り込む。 荷物が邪魔にならない様、扉の脇に陣取り動き始めた景色を目で追っていると、不意に肩を叩かれた。 「よぉ、玖。どうしたんだよ? 学校さぼってお買い物?」 声を掛けて来たのは、中学の頃の同級生だ。 狩場亮彦(かりばあきひこ)。 口調に似合わず少女の様な可愛らしい外見をしており、自らも好んで少女服を着る変わり者だ。 一般的な今時の子はあまり着ない西洋人形の様なひらひらのワンピースを着て、しかし女の子に間違えられると「男だ」と主張するところが、周囲に変わり者と呼ばれる所以だ。 「久し振り」 夏に会った時よりも伸びた髪に、布地が二重三重になった白いスカートに合わせたレースのリボンが結ばれている。 「うん、久し振り。珍しいな。この時間にこんなとこ居るなんて。……樹昊は? 一緒じゃないの?」 「樹昊」の一言に、友人に向ける笑顔が強張る。 咄嗟に言葉を返せないでいると、亮彦は「まさか」と口元に手を当て、声のトーンを落とす。 「喧嘩でもした?」 真剣な声とは裏腹に、目は面白いものを見付けた子供の様な色になる。 恐らく手で隠された口も似た様なものだろう。 「……してないよ」 「そうだよねぇ? 玖は樹昊とは喧嘩しないもんねぇ?」 含みのある口調。 「……何が言いたい?」 「言葉のまま。玖は俺の知る限り樹昊とは喧嘩してないから。喧嘩にならない様に、いつも自分コントロールしてただろ」 「…………」
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