脇道

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思い当たらなくもない。 自分は、樹昊を守るべき相手として認識していた。 無意識にそういう行動を取っていたとしても、不思議ではない。 亮彦に気付かれていたのは驚きだが。 「それに、その荷物」 亮彦が示したのは、玖が持つ荷物の中で一際大きな紙袋。 淡いベージュ地に、黒と赤の飾り文字で店名が印刷されている。 覗く中身は、グレーがかった淡い水色。 樹昊に似合いそうだと思い、つい買ってしまった冬物のコートだ。 「玖が着そうにない色」 そうだろうか。 確かに、自分は黒を好んで着ているが、淡い色の服を持っていない訳ではない。 気持ちが顔に出たのだろう。 亮彦が少女の様な顔で豪快に笑った。 「いんじゃない? その色、樹昊に凄く似合いそうじゃん」 俺も新しいコート買おうかなぁ、と紙袋を覗き込んでフェイクファーを撫でる。 亮彦とは互いの近況を話しつつ、自宅の最寄駅で揃って電車を降りた。 用事があると言う亮彦とは改札で別れ、丁度バス停に停まっていたバスに飛び乗る。 亮彦は樹昊の夏の事故の事を知らない様子だったが、玖は自分から話を振る気になれず、教えなかった。 自分達の地元の友人は殆ど同じだ。 多分、そのうち何処かから話が回るだろう。 バスの最奥の席に座り、右肩と頭を窓に付けて寄り掛かる。 バスが走り出すと、痛い程の振動が頭を打った。 ゴッゴッゴッゴッ……ガツン……ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ…… 斜め前方の席の見知らぬ女子高生が、訝しげにこちらを見ているのと目が合った。 すぐに逸らされた視線は、何やら話し続けている友人に向けられる。 玖は視線を窓の外に向け直した。 振動が、頭蓋骨を伝わり、奥歯を鳴らす。 このままこのバスに乗り続ければ、樹昊の住むあの家まで行ける。
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