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品定めしながら店の中に入っていくご主人様。俺はそれについていく。
そして数分程経った後にご主人様が俺に差し出してきたのは、フリフリの少ない清潔そうなメイド服だった。ロマンの解る男だ。
「いいのではないでしょうか、ご主人様」
俺がわざと『ご主人様』を強めて返答をすると、途端に店の中が騒めく。店主であろうお姉さんも目をパチクリとしばたたかせていた。ざまあ。変態と思われろ。
「やめろこら、貴族だと思われるだろ」
ご主人様が俺の返事に無表情で注意すると、店の中の張り付いた空気は一瞬にして崩壊した。皆、どこかホッとしたような笑みを浮かべている。
なるほど、この世界でもメイドなんかを持ってるのは基本的に金を持ってるブルジョワだけってことか。そう言えば、タックさんは世界のことは教えてくれたけど、人のことは喋ってなかったような気がする。
ということは、貴族でもないのにメイド服を着させようとするこいつは……。
変態の烙印を押されるんじゃね? うはっ、テラ計算通り。
「とにかくこれ着てこい。金は払っておくから」
「把握致しました」
「やめろっつってんだろ」
頭ぐりぐりされた。地味に痛い。
「痛いだろ! やめろよ暴漢!」
「暴漢って言うぐらいならなんで着いてきたんだよ!」
「それ『嫌なら見るな!嫌なら見るな!』と同じ理論!」
ていうか今さらだけど、さっきのこいつの言動から察するに、俺、メイド服でこいつん家まで行かなきゃなんねえの?
「大体、服はお前の家で着ればいいだろ!」
「いや俺、家ないから」
「」
何も言葉が出なかった。言葉を失うってこういうこというのかな。
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