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ご主人様は落ち着いたように嘆息を零すと、ゆっくりとした足取りで街を覆う外壁に向かい歩き出した。
顔前に聳え立つバカデカい寒色の壁には、ぽつりと嵌め込まれた緑色の目立つ扉があった。
こんだけデカい壁が周りにあるってことは、たぶん街自体も相当大きいんだろうな……。
街に着いたとは言ったものの、まだまだ外壁が見えるだけだ。その外壁も、今俺たちが歩いている場所から一キロぐらい離れている。ご主人様に訊くと、これから行く場所は治安が悪いからあまり近づきたくないのだろう、と返してきた。そうですよね、露出狂とか出ますもんね。
そうして、十五分程で深緑の門の前に着いた。
ご主人様は普通の家サイズの扉に手をかける。近くでこの壁を見ると、また壮観だ。
しかし、見張りとかはいないのか? 治安が悪いなら、それなりの対処があるだろうに。
「よい、しょっと」
ご主人様が門を手前に引く。え、もしかして本当に自分の下半身に気づいてないの? スースーする、とかないの?
「ご主人様、ズボン下がってますよ」
俺は、ご主人様がこのまま街に入った時に向けられるであろう冷ややかな視線に耐える自信が無く、遂にご主人様に注意してしまった。
まあ、ご主人様の焦った顔を見られるからいいか。
「あ、本当だ」
ズボンを引き上げ、スライド式の金具をカチッと嵌め合わせる。俺の期待とは真逆の冷静な動作だった。
……気づいてもその程度の反応ですかそうですか。
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