61人が本棚に入れています
本棚に追加
「砂漠……それはまた、ご苦労様だね。あ、部屋は今整えさせてるから待っててくれ」
ジュピターが心配しているのか関心がないのか分からない口調で慰安の意を口にする。おそらく、客に暇を与えないための話し相手を務めるつもりだろう。見た目や雰囲気はチャラ男っぽくても、一応は宿屋の血を受け継いでいるらしい。
……いや、素直に感心したんですけど。
「そうか……ふむ、なら俺達はこの街を見て回らせて貰おう」
勝手に決められた。まぁいいけど。
「ああ、分かったよ。僕の父の自慢の街さ、とくとご堪能あれ」
……お偉いさんの息子だったのか。どおりでメイドなんか……。しかも『側近の一人』ってことはまだ側近が何人かいる訳だ。
ふひひ、こりゃ良い宿をタダにして貰ったな。
今、俺とご主人様は街とやらを観察しながら二人で歩いている。今のところ、俺が想像していた街と何ら違いはない。至って普通だ。
「そう言えば、治安が悪いって言ってましたよね。どんな感じなんですか?」
俺がご主人様に耳打ちすると、「すぐテロる」と明確で素早い回答に及んでくれた。どんな街だ。
「ほら、そこでも」
ご主人様が人差し指で示した場所を見ると、確かに大人が集団で建物の壁に落書きしている最中だった。ガキか。
「ここでも」
ご主人様が次も自身の指を駆使して俺に位置を理解させる。
確かに、建物に松明で火を放つ少年の姿が見えた。こっちの方が遥かに大人っぽいテロだった。
いや、おいおい。あれ結構大事なんじゃないのか。
最初のコメントを投稿しよう!