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「お、おっちゃん! さっきまでここにあった林檎は!?」
俺は慌てながらも、伝えたい内容百パーセントの言葉を果物屋(と思われる店。看板は読めないけど葡萄とか置いてる)のおっちゃんの耳に入れた。
「んー? すまねえな嬢ちゃん。嬢ちゃんの前に来た兄ちゃんが買っていっちまったよ」
マ、マジかよ……さっきはあったのに……。
いや、そんなことより――
「じ、嬢ちゃんじゃねえっす!」
おっちゃんは「そんな馬鹿な」と言わんばかりに目を剥いて俺を見る。
まさか俺は声まで女性になってしまっているというのか。そんな馬鹿な。
「ははっ。……もう、いいですよ嬢ちゃんで……あはははは……」
「わ、わりぃボウズ! これ、お詫びだ!」
マンゴーを貰った。詳細は分からないが、さっきも林檎で通じたし、きっとこれも見かけ通りマンゴーだろう。
俺がこのマクの村に着いてから、まだ一時間程しか経っていない。宿は探し終えて、今はおつかいの途中だ。
一番安い宿『テックル』の主人と、タダで泊めてやる代わりにおつかいに行ってくる条約を交わしたのだ。
ちなみにタックさんは、俺が主人にならないと分かるとすぐに去っていった。なんでも、また男の娘を探す旅に出るらしい。
一瞬だけでも可愛い娘に乗ってもらえて幸せだったと言っていた。とんだドMだ。
「マジでくれんの? うわ、ありがとっ!」
お礼を言って、足早に宿へと戻る。超嬉しいんだけど。現代人もあれぐらい人情派だったらいいのに。
この村……というか世界にも大分慣れてきた。これもひとえに元の世界でケータイ小説を読み漁っていたおかげだと思う。
個人的には純愛というカテゴリでカムフラージュされたスイーツ(笑)よりも、最初からラブコメに分類されているギャグ小説の方が好感を持てる。
恋☆空とか、実話を元にしただけの自慰小説にしか見えない。
まあ、あの忌々しいゴキブロスを潰せるだけフリスビーよりはマシだ。
そんなことを考えながら、歩くこと五分程度。
俺は、宿屋『テックル』の扉の前に着いたのだった。
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