マクの村~ここを生活の拠点にするか否か~

3/19
前へ
/53ページ
次へ
 ガチャ、と小気味よい音をたてて宿屋『テックル』の正面玄関の扉が開く。 「おかえりんこ」 「ただいまん……! 危ねえ危ねえ」  釣られて放送禁止用語噴出しかけたけど、そもそも誰だよ。宿の主人はこんな若干のイケメンボイスじゃない。 「おお、帰ってきたか」  台所からひょっこりと顔を出して、玄関の前でじっとしている俺達を見る宿の主人のテックルさん。そうだ、確かテックルさんはこんないかにも商店街にいそうな、ちょっと粋を感じる声だったはずだ。江戸っ子みたいな。  対して俺の前で呑気に林檎を食ってるこいつは声だけじゃなくて実物も若干のイケメン―― 「……っておい! それ俺が買ってくるはずだった林檎! あとイケメン死ね!」 「いきなり暴言か、おい。林檎を先に買ったのは俺だから、この林檎は俺の物だ」  無表情で林檎をシャクシャクと齧っていくスコメン(少しイケメンの略)。 「袋にいっぱい詰まってるじゃねえか! くれよ! 林檎くれよォ!」 「……そんなに欲しいのか」 「……それがないとテックルさんに怒られんだよ。江戸っ子は怒ると怖いぞ」 「――っ! お前、名前は!?」
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加