《第4章》中堅患者への道

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1.『仕切り直し』  東京都で青島幸男さん、大阪府で横山ノックさんという2人のタレント出身知事が、同時に誕生した平成7年4月。  この春の異動で婦長が交代した透析室では、4年間お世話になった主治医の[郁さん]が、御自身の地元で開業する事になって病院を退職するという、大きなニュースが。  公立病院の勤務医という、保障された世界から自ら飛び出す決心をするには、それなりの覚悟も有ったハズ。  初診の時からの主治医が、近くに居なくなるという事の漠然とした不安や寂しさは、少なからず有るけれど…。  そんな素振りは、一切見せずお別れするのが僕の流儀。 …とは言え、最後の回診で、 「頑張って下さい」 みたいな、なんともベタな言葉しか掛けるコトが出来なかったのは、ちょいと心残り…。  [郁さん]の後を引継ぐ新しい主治医には、若い女医さんが赴任するらしい…マジでッ!?  で…僕はと言えば、職歴と資格が1件ずつ加わった履歴書をストックして、約1年半ぶりの就職活動に再挑戦するコトに。  最初の就職でお世話になった職安の[カツさん]には、さすがに合わせる顔がない気がして…今回は自力での活動。  前回同様どころか、前回よりも遥かに厳しい道程になりそうだけれど…言わば、全ては"自分の撒いた種"。  なにより…仕事もせず、プラプラ遊んでいられるほど余裕のある状況でもない。  雀の涙ほどの僅かな貯えが底をつく前に、次の仕事を見付けなけれぱ。  今回は正社員や契約社員にアルバイト…といった、肩書きは二の次にして兎にも角にも、自分が出来そうなコトを探す事に重きを置こう。  各社から発行されている、就職情報誌に掲載された求人情報に仕事の内容や、勤務地・勤務時間帯など自分の条件を照らし合わせてみると…やっぱり前回と同様、狙える的(まと)はかなり小さくなる。  けれど今回は、そこは折り込み済み。  以前、経験豊富な友人から聞いていた情報を元にして、 「仕事探しをしつつ、最低限の収入を得られる方法」 を、あらかじめ考えておいた。  その方法とは…まずは、深夜か早朝シフトのバイトを見付け最低限の収入を確保し、昼間に就職活動する…というモノ。  元々1日の睡眠時間があまり長くない僕は、たとえば透析が終わってから友人とカラオケに出撃した夜も、帰宅後に数時間だけ寝て翌朝には普通に出社する…くらいの、体力的な自信は有ったし早起きも苦手ではない。
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