《第4章》中堅患者への道

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「遅刻や無断欠勤を繰り返した挙げ句に、勝手に辞めてしまうヤツが多いんでね。  疑うワケじゃないけど…しばらくは、ちゃんと出勤するかを見させてもらう」 と、工場長…その口振りからして、かなり振り回されて懲りてらっしゃるご様子。  最初に電話で確認した時に、唯一釘を刺された、 「毎日ちゃんと…」 も、そんなトコロから来ていたらしい。  僕も正直、朝4時始動という未知の世界には、特に透析翌朝の体調など…不安な要素も幾つか有ったのだけど、いざ始めてみたらコレが見事に、案ずるより産むが易し。  むしろ早起きするのが日課になってから、以前より体が軽くなった気さえする。  この調子をキープしたいモンですな。  相変わらずイマイチ芳しくない、昼の部の就職活動も懲りずに続けながら、早朝バイトに通うコト3週間。  その間に、働き出した頃に3人いた先輩が2人減って…僕は早くも、新たに採用された2人の指導役に。  早朝という特殊な時間帯とは言え、ここまで出入りが激しいとは…工場長の心中、お察し致します(汗)。  新入団した2人は、40代で元営業マンの[マサさん]と同じく40代の、シングルマザー[久美さん]。  [マサさん]は、長年勤めていた営業所の閉店の煽りを喰らって失職、[久美さん]は小学2年生のお嬢さんを守っていくために…と、それぞれの事情を抱えながら、この水産加工会社の他にも何件かのバイトを掛け持ちし、生計を立てているらしい。  2人とも僕なんかより余っ程、切実な状況の筈なのだけど…笑顔で口を揃えて、 「先輩が高校の時から透析やっとるほうが、全然大変やん」  僕の何倍もの人生経験とフトコロの広さを、兼ね備えた2人から"先輩"なんて呼ばれるのは、ちょいと心苦しい(汗)。  第一関門だった試用期間の1ヵ月は、無遅刻で皆勤した僕。  最近のバイトでは珍しい"快挙"だったらしく、普段は厳しい表情の工場長からは、僕が透析患者だというコトも気に掛けてくれたのか、 「(皆勤は)ホンマに有り難いけど…」 という前置きの後、 「俺は別に、"毎朝、這ってでも出て来い!"とまで言うつもりは無いで、ホンマにキツイ(辛い)時は休めよ」 と、労い(ねぎらい)のお言葉。  そう言えば最近、仕事に差し支えるほどキツイ自覚症状ってのは、無いような気がする…。
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