《第4章》中堅患者への道

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 [カオルさん]の場合、しばらくの期間は腎内科のベテラン医師[河さん]が付いて、全面的にバックアップするから心配ない…と聞いても、主治医の再変更を希望する患者さんがチラホラ。  けれど…コレは決して我が儘ではなく、患者さんが少しでも悔いのない人生を全うするための、1つの主張なワケで。  むしろ個人的には、それだけ生きるというコトに執着出来る方々が、少し羨ましくもあったり…。  ともあれ…そんな[カオルさん]と[河さん]の、W主治医体制が始まって、しばらく経った頃。  透析中の僕のベッドに、[河さん]が、 「ちょっと、時間ええか?」 と、1人の男性を連れて来た。  外来で[河さん]が受け持っているという、その患者[坂くん]は色白長身で端正な顔立ちが、かつての病室仲間の[ジャニ]を彷彿とさせるだけでなく、年齢も[ジャニ]や僕とタメだった。  まさか…同じ病院で2人も、同い年の戦友と知り合うコトが出来るとは…(苦笑)。  透析導入が現実味を帯びて来たある日、主治医の[河さん]との会話の中で、同い年で血液透析をしている僕の存在を知ったという[坂くん]…すぐに、 「導入前に、いろいろ話を聞いてみたい」 と自分から[河さん]に申し出て…わざわざ仕事明けに、透析室の僕のベッドまで足を運んでくれたらしい。  ベッドの横に用意された2脚の椅子に、[河さん]と[坂くん]が腰を下ろして対談スタート。  場がヘンに堅苦しくならないように、他愛ない話題なんぞも交えながら、 「導入直前は、どんな心境やった?」 「2種類(血液or腹膜)ある透析療法の中から、血液透析を選んだ理由は?」 と、熱心に質問してくる[坂くん]に、まずは僕が先輩患者としての体験談で答え、必要に応じて[河さん]が医学的にフォローして下さる…という流れで、対談は進んでいき…。  [坂くん]は空気が和んだ頃合いを見計らっていたように、少しばかり神妙な顔になって…恐らく彼の中で、今回の対談の核心だったであろう話題を、そっと切り出した。 「…あっちの調子は、どう?」  それは決して、気になるお年頃とか男としての自尊心とか…そんな、ちっぽけなレベルの話ではない。  将来の子孫繁栄にも関わる事なんで、自分だけでなく周りの方々にも影響を及ぼしかねない、決して見過ごす事の出来ない大きな課題なワケで…。
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