《第2章》透析患者な高校生

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 3年間、同じ方向の電車で通学していた、いつものメンツと思い出話に浸りながら、ゾロゾロ駅まで歩いて行くと…普段は無人の改札口の前で、制服を着た駅員さんが2人お待ちかねで僕達を見付けるなり、 「卒業、おめでとう」  声を掛けて下さったのは、この無人駅を管轄している主要駅の駅長さんだった。  毎年、我が母校の卒業式の日には、この無人駅まで出向いて卒業生1人1人に祝福と、 「3年間、乗ってくれてありがとう」 というお礼を直接、届けに来て下さっているらしい。  忙しい中、わざわざ時間を割いて来て下さった駅長さんに、 「電車じゃなくて、車で来てるんスね」 なんてヤボなツッコミは入れずに、こちらからも素直に3年分のお礼を言っておきましょう(苦笑)。  思えば…よもやの合格発表の数日後、遊びに行った先で私服警官に家出の疑いで声を掛けられ、自宅と高校の両方に確認の電話が入ったコトから、入学早々生徒指導室で話を聴かれた…なんて珍事が、もう丸3年前の話。  この3年間を振り返ってみれば、早かったようで…それでも中身は、それなりに詰まっていたようで…。  1年の夏休み前、口腔外科の診察台で[浦さん]から初めて、 「腎臓がアヤシイ」 と聞かされた時には、 「腎臓?たしか…腰の辺りに有るんやんな?」 という程度の認識しか無かった僕も、気が付けば間もなく透析導入1周年を迎える。  そんなコトを思えば…この3年の間に、僕の生活はガラッと変わったのかも知れない。  正直、それほど実感は無いけれど(苦笑)。  ともあれ僕は、間もなく"社会"という未知の世界に足を踏み入れる事になる。 「社会では透析している事が、どれ程のハンデになるんか?」 とか、はたまた、 「透析云々を言う以前に、そもそも1人の人間として僕は社会で通用するんか?」 とか…まず頭に浮かぶのは例によって、漠然とした不安ばかりだけれど…そんなコトを、ゆっくり考え込むヒマも無く会社の新人研修が始まる。 「…ま、なるようになるわさ」  僕は自分に言い聞かせ、いざ社会へ…。
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