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椿はすぐ横にあった棒きれを掴む。
先は鋭利に尖り、急所に突き刺せば十分に死に至るだろう。
相手が『人間』であれば、だが。
「殺す……、殺してやる殺してやる殺してやる」
怒りからか悲しみからか椿は先程までが嘘のようにすんなり立ち上がる。
そのことに対し、また椿は苛立ちが募る。
もしも、もう少し早く立ち上がることが出来たなら。
もしも、安心しきったりしなければ……。
そんないくつもの仮定が脳裏を巡る。
なんの意味もないことは分かっている。
だけど後悔せずにはいられなかった。
「そんな棒きれで僕に挑むつもりか、人間」
ムラマサは嘲笑うように椿を見下す。
そんな棒で自分は死なない。
そのことが分かっているムラマサには椿の行動が滑稽にしか見えない。
だが、滑稽だろうがなんだろうが、今、この瞬間にムラマサに挑まずにいつ挑むのか。
今を逃していつ姉の仇を討つことができるというのか。
いや、なによりも椿の頭には今、ムラマサを屠ること以外は何もない。
抑えることができない負の感情が溢れている。
それを知っていながらムラマサは柚子の死体へ足を乗せる。
「あ゛ぁぁぁーーー」
言葉にならない声でムラマサに迫る椿。
ムラマサに対する憎悪が椿をつき動かす。
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