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傷つけられたというのにムラマサは酷く嬉しそうな表情で椿を見る。
そして薄く切れた右頬の傷口をスッと撫でると、血をぺろりと舐めた。
「驚いたよ。傷つけられたのなんて実に数百年ぶりだ。ふふふ、キミたち姉弟は実に僕を楽しませてくれる。……そうだ」
ムラマサは何を思ったのか傷口を自ら拡げる。
血が滲む程度だった傷は血がポタポタと地に落ちるほどになった。
「な、何を……」
椿はムラマサの行動が理解出来なかった。
何かあるんじゃないかという疑惑が椿に様子見という選択を取らせる。
「ちょっとした気まぐれだよ。知っているかい? 妖怪は自らの血を人間に与えることで眷属を作ることが出来るんだよ」
そう言いながらムラマサは俯せに倒れている柚子の髪を引っ張り上を向かせると、自分の血を柚子の口内へと落とした。
ムラマサは柚子の髪から手を離し、椿のほうを見る。
だが、椿の視線は柚子へと向けられていた。
手を離された柚子の体は重力に従い再び倒れてしまう。
さしたる変化があったようには見えない。
するとどうだろう。
完全に絶命したはずの柚子の手がぴくりと動いた。
椿は信じ難いものを見た、そんな驚愕した顔で柚子を見る。
そしてムラマサのことなど忘れたように柚子に駆け寄った。
「姉ちゃん、姉ちゃんっ!?」
揺さ振りながら必死で声をかける。
見間違いなんかじゃない。
そう信じて何度も声をかける。
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