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何度か揺すり声をかけると柚子はゆっくりと目を開く。
傍目には眠りから覚めたようにしか見えないだろう。
だが、椿は違う。
亡くしたと思った姉が帰ってきたのだ。
椿の目には涙がボロボロと浮かぶ。
涙は瞼を易々と越え、こぼれ落ちる。
「姉ちゃん……、よかった」
だが、椿は分かっていなかった。
ムラマサは『眷属』を作れると言ったのだ。
単純に生き返ると言ったわけではない。
「これはもう僕のモノだ。気安く触るなよ」
完全に油断していた椿は肩を掴まれムラマサに柚子から強引に引きはがされた。
「私……、どうして? 死んだはずなのに……」
柚子は自分の胸の辺りを摩る。
そこは血で真っ赤に染まっていて、確かに心臓を貫かれたことを現していた。
「おめでとう。キミは僕の眷属になった」
「眷……属……?」
柚子はまだ上手く動くことが出来ず、顔だけをムラマサへと向けた。
姉弟は事態がまるで飲み込めずにムラマサの言葉を待つ。
「眷属っていうのはいわゆる下僕だよ。主には絶対に逆らえない憐れな生き物さ」
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