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椿は姉がびくりと震えたことによりようやく目の前の少年が自分たちに害を成すものであることを察する。
だが、幼い椿には打開策など思い付くはずもなく、ただ姉の着物をぎゅっと握りしめることしかできない。
「貴方はいったい……」
柚子は動揺をごまかすように言葉を発する。
椿からは見えないが柚子の額には汗が滲んでいた。
いかに大人びていても柚子とて12の童子なのだ。
なんとしても弟だけは……。
それだけが今の柚子を支えていた。
「僕かい? そうだね、本来僕に名前なんてものはないけど他の者はムラマサと呼ぶね」
ムラマサの名を聞き再度柚子の体がびくりと震えた。
柚子が下働きしている旅籠で噂を聞いていたからだ。
この世の中には『妖怪』と呼ばれる人外の魔物が存在していることは周知の事実だ。
妖怪は人の姿をしているものや動物の姿をしているもの、さらには傘などの人が日常で使用する道具のようなものなど形状は様々である。
だが、皆一様に人では敵わないほどに強い生物だという。
出会ったが最後、骨も残らないと噂されている。
そんな妖怪たちの中でも唯一絶対の王として知られるのが妖怪王ムラマサだった。
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