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妖怪に出会い生存できる可能性は限りなく低い。
まして自分たちはまだ子供なのだ。
戦う力も、技術も、覚悟すら足りない。
柚子は生き残る手段を考えれるだけ考えるが、いい方法が見つからない。
焦りは比例するように発汗という形で柚子に現れる。
額に少量だけだったはずだが、今は全身へと広がりつつある。
「ね、姉ちゃん……」
姉の異常をどうにかしたいのにできない、もどかしい感覚を椿は味わっていた。
姉を助けるために前に出たいのに椿の足は憐れにもガクガクと震えていて、主の言うことを聞いてはくれなかった。
「さぁ、どちらが死にたい? いやいや、違った。どちらがどちらを見捨てる? あぁ、意味は同じか。あっははははははは」
ムラマサは姉弟がどちらを見捨て、醜く生き残るのかを楽しんでいる。
複数の人間が等しく死を前にしたときに、偽善を吐きながらも結局最後は他人を蹴落とす様をムラマサは散々見てきた。
ムラマサにとって人間の命など等しく価値はないものだが、ある種の人間くささが好きなのだろう。
ムラマサは世界に飽きていて、退屈しのぎに適当に出会った人間を狩っていた。
姉弟もまた偶然選ばれたに過ぎない。
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