序章

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逃げられる見込みはない。 ここでようやく柚子はムラマサから視線を外し、椿のほうを見る。 椿は不安そうに柚子を見つめる。 「大丈夫よ、椿。貴方を死なせたりしないわ」 柚子は弟を安心させるために気丈にも微笑みを見せた。 そして弟を包むように抱きしめる。 椿はこのとき抱きしめられていたため柚子の表情を見ることが出来なかった。 死を覚悟した姉の顔を。 椿を離した柚子の顔はやはり笑顔だった。 椿は完全に安心してしまい緊張が一気に解けてしまった。 結果腰が抜けてしまい立てなくなる。 これで椿が無謀なことを出来なくなった、と柚子は少しだけ安堵した。 いざとなったら椿はムラマサへ挑むだろう。 柚子には確信があった。 「さぁ、殺しなさいムラマサ。私を……、私だけを」 柚子はムラマサに向き直る。 そして一歩、また一歩と死へ向かい歩き出す。 「……つまらないな。もう少し足掻けよ」 ムラマサはつまらない物を見るような目で姉弟を見る。 その声は冷たく、怯ますのに十分な威圧感を持っていた。 「ご期待に添えずすいません。私に出会ったことが不幸でしたね」 しかし、柚子は気丈にも怯まずに皮肉を口にした。 ムラマサは少し驚いた顔をする。 この状況でまさかそんな台詞が出てくるとは思っていなかったからだ。
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