ココロ

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 廃棄された家電や生ゴミが山のように積み上げられた場所には、死臭のような淀んだ空気が沈殿していた。  生気を失った男が、ゴミ山に凭れ掛かって萎びた煙草で一服する。僅かな歩行スペースを痩せ細った子供たちが走り回る事で、地面に転がる女に群がっていた鴉が一斉に飛び立った。  都心の裏通りを歩けば辿り着くスラム街。銃の密売や人攫い、婦女暴行といった犯罪が黙殺される無法地帯となった場所にも、少しばかりの笑顔が灯っていた。  子供たちは無邪気だからこそ明るい笑顔を浮かべる。スラムに住む子供たちは皆が兄弟なのだ。自分の両親と暮らす者は少なく、殆どが捨て子である。そんな子供たちは身を寄せ合って生きるしかない。だからこそ、そこに一人ぼっちの少年は浮いていた。  廃棄された家電を分解して小さな部品を集める。少年の指先には、何の意味も成さないガラクタの塊が組み上がっていた。少年の傍らには数日前まで腐敗臭を放っていた女性の死体が、骨組みだけ残されている。  少年はガラクタの塊を指差しながら願った。“動け”と……    しかし、湿気に覆われたスラムには、少年の願いを叶える力など無い。吹き付ける風がガラクタの塊を本当のガラクタに変えてしまう。まるで少年の想いを踏み躙るように、あっさりと――   「……また組み上げなくちゃ。待っててね、お母さん。僕がお母さんを幸せにするって約束したから」  
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