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少年と母親がスラムに腰を落ち着けてから数ヶ月が経っていた。
赤銅色の肌を持つスラムの住人の中で、唯一肌の白い親子。それが少年とその母親だった。夫の借金から逃げる為に国を出た親子に行く当て等は無く、スラム街に零落れた親子をスラムの住人は拒まなかった。しかし、それは受け入れた訳ではない。
十数年前に起こった戦争で敵対していた国の人間に心を許せる余裕など、ここの住人には無かったのだ。
スラム街を覆う鼻を衝く異臭は鴉を呼び寄せる。子供たちの笑顔に関心を向ける大人は彼女以外に居なかった。少年の母親は、仕事の合間を縫って子供たちの笑顔を見に来る。彼女にとって、息子と年齢の近い子供が共に遊ぶ姿は、何よりも彼女の力になるのだ。
そんな母親に気付いて少年は手を振る。満面の笑顔は少年が幸せであるという証だった。少年に続いて数人の子供たちも手を振った。彼女は身寄りの無い子供たち全ての母のような存在だった。
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