決壊

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   彼がスラムを訪れたのは、これで三度目だった。幼馴染である彼女が息子を連れてスラムに零落れたと知ったのは、偶然だった。彼女が暮らしていた賃貸アパートの管理人と、町のバーで出会って話を聞いたのだ。    結婚して家庭を持った彼女を祝福してから彼女には会っていない。だから夫の借金に彼女が苦しんでいた事も知らず、手を差し伸べる事すら出来なかったのだ。    彼女がスラムに落ちて数年が経っている。    スラムで人を探す事の困難さを、彼は身を以って知った。二度足を運んだ際には彼女を見つける事が出来なかった。彼の行く手を阻む弊害の一つは、なんと言っても空気中を漂う汚物のような臭い。臭いが口から入り込みそうで、鼻からも口からも空気を吸い込めないのだ。    臭いに耐性が出来たところで二つ目の弊害である。スラムの人間は白人に非協力的であるのだ。彼の言葉に耳を傾ける者は少ない。    そんな彼の視界に、彼と同じ白人の子供が映った。よく通った鼻筋やスカイブルーの瞳には、彼女の面影を感じる。しかし、骨が浮き出た子供の表情には色が無かった。  
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