決壊

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   彼の言葉に嘘は無かった。彼は、彼女とその子供を迎えに来たのだから。しかし、彼女は既にこの世に居ないのだろう。だからせめて、目の前の少年だけは助けたい。彼は少年の色の無い瞳を見つめた。   「そう。これからは、おじさんと一緒に“二人”で暮らすんだ」    そんな彼の言葉に、少年は首を傾げる。   「二人? お母さんはどうするの?」    少年は母親の死を受け入れていない。母の身体は壊れた。人間の身体はいつか壊れる。少年は機械の身体を母の為に組み立てた。しかし、機械(はは)は動かなかった。    何度組み立てても――    何度願っても――    ガラクタの塊はガラクタの塊でしかなく、風が吹くだけで壊れてしまう。その度に少年の心は錆付いた歯車のようにギシギシと音を立てた。そんな事を繰り返す内に、少年の心は噛み合わなくなったのだ。   「お母さんは、もう居ないんだよ」    彼の視線は膝元の遺骨に向けられる。唇を一度だけ噛み締めてから、言葉を繋いだ。   「君のお母さんは死んだんだ。この世には居ない。だから、君はおじさんと一緒に暮らそう」   「そんなの嘘だ。お母さんはちゃんと居るよ。お母さんの身体を作ったんだ。今までのは形が気に入らないだけで……」    少年の瞳から滴が零れる。最後の言葉は自身の嗚咽が掻き消した。そんな少年を抱き締める彼の肩は震える。少年を包み込む暖かさは、母のそれに似ていた。  
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