5人が本棚に入れています
本棚に追加
彼の言葉に嘘は無かった。彼は、彼女とその子供を迎えに来たのだから。しかし、彼女は既にこの世に居ないのだろう。だからせめて、目の前の少年だけは助けたい。彼は少年の色の無い瞳を見つめた。
「そう。これからは、おじさんと一緒に“二人”で暮らすんだ」
そんな彼の言葉に、少年は首を傾げる。
「二人? お母さんはどうするの?」
少年は母親の死を受け入れていない。母の身体は壊れた。人間の身体はいつか壊れる。少年は機械の身体を母の為に組み立てた。しかし、機械(はは)は動かなかった。
何度組み立てても――
何度願っても――
ガラクタの塊はガラクタの塊でしかなく、風が吹くだけで壊れてしまう。その度に少年の心は錆付いた歯車のようにギシギシと音を立てた。そんな事を繰り返す内に、少年の心は噛み合わなくなったのだ。
「お母さんは、もう居ないんだよ」
彼の視線は膝元の遺骨に向けられる。唇を一度だけ噛み締めてから、言葉を繋いだ。
「君のお母さんは死んだんだ。この世には居ない。だから、君はおじさんと一緒に暮らそう」
「そんなの嘘だ。お母さんはちゃんと居るよ。お母さんの身体を作ったんだ。今までのは形が気に入らないだけで……」
少年の瞳から滴が零れる。最後の言葉は自身の嗚咽が掻き消した。そんな少年を抱き締める彼の肩は震える。少年を包み込む暖かさは、母のそれに似ていた。
最初のコメントを投稿しよう!