茶を入れろ。十秒で。

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校舎の二階の片隅。 部活時間にもなると心地よい日差しが入り込んでくる。 窓を開ければ今なら桜の仄かな甘みある香りをのせた風も入るだろう。 日差しを背に、上等な革張りの椅子に座った麗人が本のページをめくっている。 BGMはクラシックで馴染みの魔王。 魔王…実にこの人にピッタリだよ。 部長・晶の上等な革張りの椅子と違い、葵の椅子は椅子ではなくチョークがダース単位で入っていた小さい箱をガムテープで何十個も合わせて作ったもの。 体重のかけ方を間違えたら潰れるのは経験ずみだ。 「葵、茶を入れろ」 「はい。紅茶ですよね」 「十秒で入れろ」 んな無茶な!ボトルをカップに入れるだけだが、冷蔵庫を開けたりして運んだり含めて十秒で!? と頭で叫びつつ体は勝手に動いている。 入部して二週間。 初めて会った時言われた台詞が今でもクッキリ覚えている。 部活探し真面目にやればよかったと後悔してももう遅い。 ここ京籠高校の校則。部活は絶対入部。退部は認めない。 体育会系は体力ドベには無理なので、文化系で部活探しを始めた。 写真部‐カメラ必須。持ってないし高いし無理。 文芸部‐小説なんてなにも考え付かない無理。 天文学部‐夜が中心とか無理。 漫画部‐読むなら好きなのに、描かないといけないのかよ。無理。 なんて、リストに載ってる部活巡りに飽きてきた頃。
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